第一章 春は憂鬱の香り

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「学校で、何かあった?」  春恵さんの手がポンと私の肩に置かれる。その温かさに強張っていた心も思わず緩み、目じりから涙がにじみ出す。でも、私はそれは無理やり引っ込めた。あれくらいの悪口で泣き出すなんて、何だか癪に障る。 「聞いてよ、春恵さん!」  その代わりに、私は声を張り上げていた。春恵さんは、私がふつふつと怒りに燃えていることに気づいて、周りの迷惑にならないようにカウンターまで連れてきていた。 「ひどくない?! 私がピアノやりたいって言ったわけじゃなくって、新田さんがみんなにバラしたからひくはめになったのにさ、それを『うざい』って……『調子に乗ってる』って!」 「まあまあ、落ち着いて。樹里ちゃん、その新田さんっていう子も何か事情があったのかも……」 「事情があったら、人の悪口言ってもいいの?」 「んー……良くはないけどね」 「もうやだ、学校行きたくない……いつまで経っても友達出来ないし」 「あら、まだできてないの?」 「傷口に塩塗らないでよ……」 「樹里ちゃんが先に言い出したんでしょう? でも、相当すっきりしたんじゃない?」 「すっきり?」  私が首を傾げると、春恵さんはいつものように柔らかく微笑んだ。     
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