第二章 いつもどおりの春はこない

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第二章 いつもどおりの春はこない

 友達が出来なかったんじゃない、作ろうとしなかっただけだ。  ただ寒いだけの季節を越え暖かくなってきた時分を、人は皆、春と呼ぶ。今年も飽きもせずその春がやってきた。この季節というものを、僕はあまり好きではなかった。この国に帰って来たときから。淡いピンク色の花が咲く甘ったるい臭いも、浮足立つ周りの雰囲気も。ガヤガヤと騒々しくざわめく人混みをすり抜けて、僕は帰路に急ぐ。……急いだところで、家族も誰もいない部屋でやることは、何もないのだけど。  僕がアメリカからこの日本に、逃げるように帰ってきたのは、二年前の春。学校には通った方がいいと父に言われ、僕は二次募集をしていたこの常盤台高校にギリギリのところで滑り込んだ。父の仕事の都合もあり、家族は皆アメリカでまで暮らしている。僕はもうずっと一人暮らしをしていた。  アメリカじゃなかったら、どこでも良かった。サハラ砂漠の真ん中でも、僕は暮らしていける。しかし一人で暮らすことを考えたら、日本が一番治安がいい。何より、僕の祖国なのだから。 「おい、野々口! ……野々口彼方!」     
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