第二章 いつもどおりの春はこない

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 足早に廊下を進む僕の背中に、武骨で品のない声が当たる。振り返ると、この四月から担任になった進藤が仁王立ちしていた。周りの生徒たちも嫌な顔をしている、無理もない。小太りで煙草臭くて無神経で、その上笑い方が汚い。この常盤台高校で一番嫌われている教員だ……そして、三年生になった僕のクラスの担任でもある。僕はその呼びかけに無視して先に進もうとすると、強く肩を掴まれた。 「呼んでるだろう、無視するんじゃない」 「……」 「返事くらいしたらどうだ」  僕はとても小さな声で「はい」と言うと、進藤は満足したのか大きく笑った。その笑い声は下品でうるさくて、周りの生徒たちもじろじろと僕を見るから嫌いだ。 「話がある、進路指導室までこい」 「……はい」  二人きりで呼び出される場合、碌な話にはならない。僕は経験則でよく知っている。僕が思った通り、進藤は険しい顔をして席に座った。僕が向かい合った席に座るよりも先に、僕の通知表と春休み中にやった模試の結果を置く。通知表に並んでいる数字は『二』や『三』ばかり。それ以外の数字は一つもないし、去年の担任が書いた一言も散々なもので『協調性がない』『課題を出すように』『授業を真面目に聞くこと』……そう言った言葉が並んでいる。それは、一年生の時も同じだった。しかし、模試の成績はその散々たる結果からは大きく離れていて……適当に書いた有名大学、この国トップクラスのものまですべてにA判定が付いている。しかも、その全て志望者全員のうち成績も一位だ。 「大して勉強もしていないのに、よくやるな。……何だ、カンニングでもしたのか?」     
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