第一章 春は憂鬱の香り

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 私には今、友達がいない。全くいない、一人もいない。その言葉通り『0』だ。こうなってしまったのは全て、入学式の日から風邪を引いてしまって、そこから一週間程度学校を休んだせいだ。熱が下がってようやっと学校に行けた時にはクラスの中でもすでにグループが出来上がっていて、私がそこに割り込むこともできずにずるずると五月まで過ごしていた。私だけじゃなくって新しく作られたグループもまた、出来たばかりでまだ輪郭がはっきりしないそれぞれのコミュニティの輪を崩すことを恐れて誰も話しかけてくれることはなかった。中学の時から仲良かった子たちが一人でもいたらいいのだけれど、友達はみんな違う高校に行ってしまっていて、同じこの浅黄高校に来ているのは私みたいな地味系とはだいぶ毛色の違う、いわばギャル系の子たちだけ。  だから、こんなこと少しも望んではいなかったのに、私はクラスの片隅にぽつんと存在する『ぼっち』になることを選ばざるを得なかった。  相沢樹里・十五歳。ひとりぼっちの高校生活を、これからどうやって充実させていくか。それが目下の課題である。周りの子たちが放課後や休みの日に遊びに行く予定を立てている傍らで、私は少しだけしょっぱい味のする卵焼きを数回だけ噛んで、飲み込んだ。やっぱり、一人は、寂しい。  そんなにうじうじとしていないで、話の合いそうな子に声かけてみればいいじゃん! と思う人もいるだろう。でも、そう思っていざ立ち上がっても、どうやって話しかければいいのかもわからなくて体がピタっと動かなくなる。そして、話しかけたとき相手に『空気の読めない奴!』だったり『今盛り上がってるんだから邪魔しないでよ!』なんて思われたらどうしようとか、そんなネガティブな事ばっかり考えるせいで気持ちもみるみるうちに萎んでしまって、私はそのまま、またへたりと座り込んでしまっている。     
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