第二章 いつもどおりの春はこない

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「そういうの、一番嫌いなんで。失礼します」 「あ! おい! 野々口!」  進藤の叫びを無視して一目散に玄関まで走っていく。靴を履き替えて外に出た時、ようやっと一息落ち着かせることができた。校舎の中から、まだ進藤の怒号が聞こえてくるが……ここまで追いかけてくることはないだろう。駐輪場に向かい、自転車をこぎ出す。学校に来るのはこの上ないくらい面倒くさいが、この自転車に乗っている時間だけは好きだった。風を切る感触は、まるで猛スピードで飛んでいくロケットに似ている。それを楽しみたくて、僕は時々学校帰りに寄り道をしていく。それも、嫌な気分になったときに限って。今日なんて特にそうだ。時間を忘れてペダルをこぎ続け、知らない街、見たことのない建物をすり抜けていく。 「……【子ども図書館】?」  オレンジ色の夕日が、それを照らしていた。一階建てで、淡いピンク色の塗装が施されているその建物に、僕は懐かしさを覚える。それが小さな時通っていたプリスクールに似ているせいかもしれない。自転車を停めてその中に入っていく。目線より小さな位置にある靴箱、子どもたちの声、ソファに置き去りにされた絵本。それらが僕を、過去に誘おうとしていた。 「あら、お兄さん。初めて?」     
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