第二章 いつもどおりの春はこない

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 僕がそれを手に取ると、カウンターの奥にいたあの女性が話しかけてきた。 「ここに来た人が自由に何でも書いてもいいノート。お兄さんももし良かったら、何か書いてくれたら嬉しいな」  はい、とペンを渡される。僕は手近な椅子に座って、ペンを持ったままそのノートを開いた。怪獣やドレスを着た女の子、ロケットと宇宙……子どもらしい無邪気な落書きが続くが、書き込まれた最後のページだけは少し違った。少し丸みを帯びた、中学生か高校生の女子が書いたであろう愚痴あった。 『学校に行っても、家に帰っても何も楽しくない。学校では全然友達ができる気がしないし……風邪なんて引くんじゃなかった。それさえなければ、今こんな思いしなくて済んだかもしれないのに。家だってそう、お母さんのピアノのレッスンがどんどんスパルタになってきてる。自分の叶えられなかった夢を人に押し付けるの、やめてほしい。私はもっと、自分が本当に好きな事をやりたいのに!!!』  学校でよく聞く叫びに似ていた、やれ親がどうした友達がどうした、学校なんて面倒くさい。いつもは聞き流しているのに、この目から飛び込んでくる情報を受け流すことがなぜかできなかった。僕はその荒れ狂った言葉に矢印を指して、一言だけ書き込んでいく。     
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