第二章 いつもどおりの春はこない

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 司書の言葉に、三原はあんぐりと口を開ける。 「どうしよっか……ネットで調べるのもいいけど、俺今オカンにスマホ没収されてんだよね。野々口は?」 「持ってない」  嘘だ。スマホ持っていると言うと、すぐに「連絡先教えて欲しい」と聞かれる。猥雑な人間関係はできうる限りシャットアウトしたい僕は、スマホの有無を聞かれるたびにそう答えるようにしていた。 「そっか~、どうするかな。これじゃ俺らのクラスだけ出遅れることになるし」 「町の図書館に行ってみたらどう?」 「町の?」 「ええ」  早く三原から解放されたいのに、この図書司書は余計な事を言ってくれる。司書はプリントの裏側に、さらさらと地図を描いた。 「私の友達が働いている図書館なんだけど、ここならきっとあると思うの」 「マジすか! じゃ、さっそく行ってみます! ……ほら、行くぞ野々口!」  またもや、拒否権は奪い去られてしまっていた。  学校の図書司書が言っていた図書館、その前で自転車を停める。僕には、その建物に見覚えがあった。 「【子ども図書館】……」 「何? 野々口知ってんの?」 「まあ、ちょっと」 「早く行こうぜ! 本取られちゃうかも」     
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