第二章 いつもどおりの春はこない

11/19
前へ
/158ページ
次へ
 慌ただしく建物の中に入っていく三原の背中を見ながら僕はため息をついた。そして牛よりも遅い足取りで続くように【子ども図書館】に入っていく。僕がその中に入ったとき、三原は司書にペットボトルロケットの作り方が書いてある本の場所を聞いていた。そこから視線を逸らすと、カウンターに置かれていたあのグリーンのノートが目に入った。思わず手に取って、ノートを開く。心のどこかでまだ、あの『自分の本当にやりたいことをやりたい』と悩んでいたあの言葉の主の事が、気になっていたのだと思う。同じ人物が書いたと思わしき言葉は、案外すぐ見つかった。 『何を弾いても、どれだけ好きな曲を弾いても、もう私は自分の気持ちをその曲に乗せることはできないのかもしれない。どこかに、私の気持ちにぴったりと合うような、代弁してくれるような曲があればいいのに。誰か教えてよ』 「それなら……自分で作ればいいじゃん」  思わず呟いたその言葉、幸いにも三原や司書には聞こえなかったようだ。僕はカバンからペンを取り出し、今言った言葉をその愚痴の近くに書き込んだ。僕の気の迷いは、まだ続いているようだ。 「おい、野々口。ボーっとしてないでこっちこいって」  再び三原に腕を引っ張られる、子どもサイズに揃えられた本棚の間を進んでいくと、児童向けのハウトゥー本が並んだコーナーに来ていた。 「ここにあるって。探そうぜ、ほら」  僕の袖を引いた三原は、背表紙を一冊ずつ、読み上げながら確認していく。一音ずつ間延びしたあほっぽい声だ。三原とは反対側から、僕も背表紙を見ていく。もちろん声には出すことはない。 「……あ」 「あ! あった! ……野々口、それ何の本だよ」     
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加