第一章 春は憂鬱の香り

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「そうなの?」  腕時計を付け直し、オルガンの蓋を閉める。 「結局は、いついかなるときも、誰かの評価を気にしてるの。学校ではクラスメイトの、家ではお母さんのって感じで」 「でも、友達って評価しあうような関係じゃないんじゃない?」 「春恵さんにはわからないけど、今の女子高生はいっつもシビアな関係を生き抜いているの」  クラス内でいつの間にか決められていたカースト。その上位陣の機嫌をいかに損ねずにうまくやり過ごすか。まだ入学して一か月程度だけれど、その並びははっきりと区切られている。カーストトップで私と同じ中学校出身の新田さんが欲しがっていたリップグロスを、真ん中らへんにいた真鍋さんっていう女子が持ってきて、新田さんにちくりと嫌味を言われていた。真鍋さんはそれ以来萎縮してしまっていて、もう自分で話題を切り出す役目ではなく、ただひたすら頷くマシーンになってしまっている。ひとりぼっちはもちろん嫌だけれど、あんな目に遭うのもごめんだ。だからこそ、『今自分は、他の人からどう見られているか』という評価は高校生活を耐え抜くために大事な物になっていく。 「ふーん。いつの時代も、女子高生って大変なのね」 「春恵さんも大変だった?」     
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