ヘイト・フル

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 非常に申し訳ないし、こんなことを言うと、わたしが非常につめたい女だと誤解されそうでいやなのだけれど、彼のこの一連の発言をきいても、わたしの心はまったく響かなかった。  さながら明鏡止水。まるで画面の向こう側の、つまらない外国のドラマをみているような気持ちになった。  その台詞を聞いたのが、ひと月前なら、あるいは、二週間前なら、ちがったかもしれない。しかし、その時期は、はっきりと、すでに過ぎてしまったのだ。 「もうおそいよ」  重たく、つめたい響きだった。井戸の奥の暗い水のように。  彼が傷ついた気配がした。それを可哀想だとも、わずらわしいとも思った。わたしがかつて彼の言い草に傷ついたときも、彼は、いまのわたしとおなじ気持ちだったのだろうか。 「じゃあ、もっと早く言ってくれればよかったのに」 「なんでもわたしが、わるいのね」  非難めく。彼はすぐ非難めくので、わたしも彼と同じように、すぐ非難めいてしまう。と、すると、わたしたちは案外、似た者同士なのだ。似ているから惹かれあい、似ているから嫌になったのだ。同類相求。同族嫌悪。  ほんとうは、もう、その息の仕方まで、気持ちが悪いというのに。
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