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破壊と創造
●倉庫-ミシェル
僕は突如帰還した御伽先生、そして兄であるゼロスを介抱する。といっても研究所の中の小さな部屋に寝かせているだけだ。
意識が朦朧としている様子の御伽先生と、完全に意識を失っているゼロス。だが御伽先生は途切れ途切れながらも声を出す。
「すまない……油断してた……」
「いま救急車を呼んでる。もう少し待って。」
「俺より……ゼロスが……まずい」
そう言葉を出す御伽先生に僕は答えない。ゼロスが生死の境を彷徨っているなは見ればわかる。何があったかは分からないがかなり重症だ。
胸と背中には大きな生物に引っ掻かれたような大きな傷が残り、頭部の損傷も激しい。生きているのが不思議なぐらいだ。
恐らくゼロスはもう……。そう思いながらもゼロスと御伽先生の傷口に応急処置を施す。
「俺だ。……俺なんだ……ゼロスをこんな目に合わせてしまったのは!」
こういう時に言う決まり文句みたいなものだ。僕はそんな御伽先生をフォローしてやれるほど精神的余裕はない。
この実験で多くのものを失いすぎた。秀吉、源氏、そしてリアム。とうとう兄まで奪われようとしている。
僕が無視して応急処置を続けていると、御伽先生は僕の腕を強く掴む。僕は一瞬手を止め御伽先生の顔を見た。
「俺……なんだ。」
呟く御伽先生の表情はなんとも悲しそうな表情だ。意味は分からないが、僕が思う決まり文句とはまた違った意味な気がした。
それでも僕には余裕なんてなかった。御伽先生をぐっと見つめ返し、ゆっくりと手を退ける。
それを最後に御伽先生も意識を失う。僕にとってはここからがとても長く感じたが、数分後には救急車が到着した。
この数日後だ。
ゼロスが短い生涯を終えたのは。
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