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玄関を出ると、隣のおじいさんがプランターの花に水をやっているのが見えた。
「おはようございます」
小さく挨拶をすると、
おじいさんがにこりと笑った。
「これから、仕事ですか」
「ええ、そうなんです」
私はそう答えつつも、おじいさんの行動を不思議に思っていた。
雨が降っているならば、プランターの花に水をやる必要はないのではないか。
雨が降っているにも関わらず、おじいさんは傘を差していない。
「あの…濡れてしまいますよ。傘を差した方がいいのでは…」
私がそう言うと、おじいさんは微笑んでみせた。
「傘ですか。なくても大丈夫ですよ。なんなら、あなたも傘を外してごらんなさい」
私は不思議に思いつつも、傘をすっと下に降ろした。
何故だか、雨粒は身体に落ちていかない。私が呆然としていると、おじいさんは再び微笑んだ。
「この雨にあたってもね、濡れないのですよ。いや、これは雨とは言えないのかも。先程、淡い青色が混じったような雨粒を見ませんでしたか」
「ええ、さっき、窓ガラスに変わった色の水滴がくっついているのを見ました」
おじいさんは空を見上げた。
「あれはね、冬を溶かしているのですよ」
「冬を溶かしている…」
「ええ、もうすぐ春がやってきますからね。」
おじいさんは目を細めた。
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