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「今日の取材相手は彼だ」  上司に差し出された写真を見て目をむいた。よく知った顔がこちらを見ている。和泉志稲。今、世界中が注目している奇跡の遅咲きサッカー選手。十代の頃の振るわなさが嘘のように突然得点王になった男。よく知った顔なのはスポーツジャーナリストとしては当たり前だろう。だが、別の理由で私は彼を知っていた。 「どうした?」 「いえ」 動揺する話ではない。彼が有名になり、私がジャーナリストの道に入ればありえないことではない。でも、まさかこんな形で再会することになるとは。 「確か、和泉選手は君と同じ高校だったな」 「ええ。外街学園高校」 「何か接点はなかったか? 高校時代に。同じクラスになったとか」 「いや、クラスが隣っていうだけでした。学年は同じでしたが。接点はほぼなかったですね。第一、遠征の大会の怪我ので出席日数ギリギリだったんじゃないですか。会う暇なんてありませんよ。私のことを知っているかも疑問です」 「わからんぞ。君だって高校のときは有名人だったろう?」 「レベルが違います」 私が有名だったのは高校三年生の初夏までだった。外街学園始まって以来のスポーツ選別クラス以外からのテニス部レギュラー。三年引退後は名門外街学園テニス部を部長として率いて全国へ。結果は三位。だが、私がまともにプレーできたのは初戦のみだった。初戦で追った右肘の負傷は全国大会だけでなくテニス人生丸ごと叩き潰した。当然、注目もされなくなった。私はそれ以来、ラケットを握っていない。だが、スポーツに関わって痛くてスポーツジャーナリストになった。 「しかし」 上司はしつこく食い下がった。 「外街学園の名前を出したら食いついたぞ。『懐かしい。それはぜひ』って」 「リップサービスかと思いますが……でも、取材はばっちりしますよ。高校時代の思い出とかもフル活用します。あたしは覚えてなくても先生は覚えてるかもだし」 にっと笑っていう。嘘がバレないように。 「それで場所は?」 ふと視線を落として尋ねる。視線の先には私のペンだこがくっきり浮かび上がった手があった。彼はきっと私を忘れているだろう。私も忘れたい。だから知りたかった。さよならの理由を。
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