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予想外の言葉だった。て? 手? 「え?」 私は聞き返した。 「ペンだこが出来てるね。それからキーボードたこって言うのかな? 下の方、硬くなってる。ジャーナリストの手だ」 あ、と思った。そうだ。私はもうあの手にはなれないのだ。マメやタコは当たり前、時に包帯やら絆創膏やらで埋め尽くされていたあの手にはもうなれない。私の手は相変わらず、すらりともしてないしやわらかくもない。だが、やはりあの時の手と今の手は違う。私の手にはもうペンだこしか出来ないのだ。聞きたいことも言いたいことも全てあの手と一緒に少しずつ消えていったのだ。今はもう何もない。このひとに言う事も聞くことも。あの手と一緒に全て消えたのだ。さよならの理由を追うあまり、気付かなかった。だが、もう気づいてしまった。あの時代は終わっていることを。 「ありがとうございます。では、先日の試合ですが」 私はジャーナリストの声で言った。
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