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あるところに鬼がいた。
鬼の容姿は人と同じで在りながら、眉目秀麗であり富を持っていた。
何故、鬼。と呼ぶのか?
この鬼を鬼と呼んでいるのは、鬼自身だけであった。
周りの者は彼が鬼だとは全く気付いて居らず、麗人の富豪。としか世に認知されて居なかった。
自分が鬼だと気付いたのは幾つの頃であったか。
歳の頃は忘れたが、人目に付かぬように交際していた大切な恋人の腸を切り開かれた腹に顔を埋めて獣の様に歯を立てて喰らっていた。息をするのがキツくなる程。
自分が鬼だとソコで気付く。腸を喰らいつくした後に白目を向いて明らかに絶命している恋人を阿呆の顔で呆然と見下ろしていた。
口元には恋人の血や肉片を付けたままで。
周りにはばれなかった。人目を忍んで交際していたのが功を制した。恋人は見つからなかった。肉も、骨も、内臓も。全て鬼が食べ尽くしてしまい、文字通りこの世から恋人は消えた。
鬼は苦悩する事になる。理由は2つ。
気付けば愛する人を食べてしまう。
これは鬼自身もどうしようも無かった。寧ろ、愛する人が出来ることで自分は鬼では無くて人である。と言う行動とは全く真逆で意味の無い理想を持つ事で、鬼ではあるが人の心を失っていない。と馬鹿な希望を持ってしまった。
死ぬことが出来なくなった。
愛する者を喰らう度に自責の念が湧いてくる。
自分は死ななければいけない。
刃物を己の身体に何度も何度も何度も突き刺す。
痛みに耐えながら。
溢れ出す血。何故かそれは赤い。鬼畜の所業をしていても。血は赤かった。
遠のく意識。瞼をゆっくりと閉じる。そして目が覚めると身体は刺し傷1つとして無かった。
山に登り、岩肌剥き出しの渓谷へも飛び込んだ。岩にぶつかり転げ落ちながら骨の折れる鈍い音を身体の中から聞いた。
それでも起きると身体の傷は消えていた。
首吊りも効果無し。苦しい時間が続くだけで、4日間苦しんだ後に自分で紐を千切った。
口に布を加えて、両手に鋸を持つと自分の首に当てて切断しようと何度も鋸を引いた。始めはグチャグチャと肉を引き千切りながら激痛に耐えていた。鋸はやがて骨に当たると切れ味が極端に落ちた。何本もの鋸を利用して切断は遂行された。
落ちた首。前のめりに倒れる体。それらは同時に地面に落ちた。不思議と「とすん」と音がした。
それでも死ねなかった。鬼は苦悩し続けた。
西野○な風に言うと、死にたくて死にたくて震えていた。
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