黄色い狂気

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僕は、震える足でリツの傍に行って膝をついた。両手でリツの顔を挟んで覗き込む。虚ろな目をしたリツが、弱々しい笑顔を浮かべて、僕の手に擦り寄った。 「…ルカ、ルカが無事で…よかった。俺…思いっきり、突き飛ばした…けど、怪我してない…?」 「バカッ!なんで無茶するんだよっ。僕なんて庇う価値もないのに…っ。余計なこと、するなよっ…」 「へ…へへ…。ルカ、俺のこと…、心配してくれてる?すっげー、嬉しい…」 「はぁ?こんな時に何言って…。やっぱりリツはバカだ。リツ…、少し、我慢してて」 僕はリツのシャツの裾をめくると、僕のシャツの袖で血を拭う。リツの横腹に、尖った爪が突き刺さった五つの穴が開いていた。僕は顔を近づけて、穴の一つ一つに、丁寧に舌を這わせていく。 僕の舌に、鉄臭い苦い味が広がる。それでも、『せめて血を止めなきゃ』と、夢中で順番に穴を舐めた。 しばらくして、リツの「ルカ…」と呼ぶ声に、僕の集中が切れた。僕の髪の毛を梳くリツの手を退けて、ゆっくりと身体を起こす。リツの傷は、まだ痛々しく赤く腫れているけど、どうやら上手く血を止めれたようだ。 傷を確認して、小さく息を吐いた僕の身体を、リツが自分の胸の上に抱き寄せる。慌てて離れようとした時にはもう遅く、ガッチリとリツに抱きしめられてしまった。 「…離してよ…」 「…嫌だ。ルカ、ありがとう。俺の傷を、血を、舐めてくれて。こんなの、放っておいたって三日もあれば治るのに…」 「でも、血は早く止めなきゃダメだよ…。僕、あまり上手くないんだけど、ちゃんと血が止まってよかった…」 「うん…、俺さ、今、死んでもいいくらいに幸せ」 「は?なんで?せっかく血を止めたのに…っ」 「だからだよっ。ルカが、一生懸命舐めてくれた。こんなに、嬉しいことはないっ…」
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