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俺は、今日から妙なクラスの担任を持つことになった。教室に入ると、小さな子供たちが不審者でも入ってきたかのように見つめる。こいつらとの接点がほとんどないから当たり前か。室内がざわつく中、俺は教卓の上に名簿を置いた。 「今日からお前らを担当することになった北川だ。よろしくな」  挨拶の後、今日の日程を話している間も生徒たちは静かにしている。それから、授業も不自然な点は見つからなかった。強いて挙げれば、前の担任たちの荷物がやたら残っていることだ。学校の道具から貴重品まである。俺は全部まとめて引き出しに突っ込んでおいた。給食、休み時間も問題なかった。しかし最後になって、それを目の当たりにする。  帰りの会、最後に生徒たちがランドセルを背負い、姿勢正しく立っていた。挨拶することを覚えさせるために、きちんと号令をかけないといけない。 「それではみなさん、さようなら」  手本を見せるように大きな声で言い、頭を下げる。しかし、生徒の声はない。素早く顔を上げると礼だけはしていた。  噂はきいていたが、ここまでとは。この2年2組の生徒は帰りの挨拶だけ、頑なにやらなかったのだ。これにショックを受けて・・・・・・まさかな。こいつらの元担任、副担任は行方不明になっている。とにかく、この状況をなんとかしなければ。 「声が出てないぞ、もう一度。さようなら」  もっと声を張って言ってみた。しかし、誰も真似せず、丁寧に礼だけはする。こいつら、先生を舐めているのか。 「なんで挨拶をしない? もう一度。さようなら」  だんだん苛立ちが募っていく。しかし、全く挨拶する気がないようだ。 「お前らいい加減にしろよ。大人をからかうんじゃない」  俺が怒鳴り散らす。皆の肩が跳ね、震えている奴もいた。しかし、挨拶する生徒はいない。 「いかがなさいましたか?」  声を聞きつけて、隣のクラスの担任が来る。俺が説明しようと生徒たちを指差すと、首を振った。そして、俺の横に並ぶと生徒に向けて話し始める。 「皆さん、今日は帰りましょう。明日も元気に登校してくださいね」  深々とお辞儀をすると生徒たちは一目散に教室を出ていった。 「なんで怒らないんだよ」  生徒がいなくなり、藤嶋に問いただす。すると、窓の方へ行き、帰っていく生徒を眺めた。さっさと俺の質問に答えろよ。肩を掴むと口を開いた。
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