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「何か言えない理由があるんだと思います。私はその理由でクラスの皆が結束しているように感じます」  しばらく、見つめていると2年2組の生徒たちが校門を通り始める。先程とは違い、皆笑顔になっていた。 「じゃあね」「バイバイ」「また明日」  甲高い声が響いている。藤嶋も少しだけ微笑み、教室を出ていった。  納得できない。何が理由だ、結束だ。そんなんだから、舐められるし学級崩壊するんだよ。あいつらに絶対言わせてやる。俺は爪跡が残るほど、拳を握りしめていた。  翌日の5時間目、俺は黒板に大きく自習の文字を書き、プリントを数枚渡す。 「今日は簡単な面談をする。出席番号順で終わったら次の人を呼ぶこと。早めに終われば、体育館を借りているので遊んでいいぞ」  そう言うと何人かが感嘆の声を上げた。俺は口角が上がるのを手で隠し、名簿を確認する。 「それじゃ、赤阪」  俺が呼ぶと赤阪と思われる男子が立った。そいつと一緒に教室を出て、あるところに向かう。この小学校は少子化の影響か、空き教室がいくつかあった。2階に上がり、3つ並んだ空き教室のうち中央の教室に入る。室内には余った椅子や机がいくつかある程度だった。俺は椅子を一つ取り、それに腰を掛ける。赤阪は首を傾げながら、俺を見つめていた。 「お前はここに立て」  俺は足で床を踏んで示す。それに従って赤坂が立ったので、説明を始めた。 「今からやることは一つだけ。きちんと俺に『さようなら』と挨拶することだ。それだけでいい」  赤阪はえ、と漏らし戸惑っている。早く、と捲し立てるとビビりながら挨拶をした。一人だったらできるのか。 「よくできたな。ここでやっていることは誰にも言うなよ。次、岩端呼んでこい」  俺は名簿にチェックをつけながら言った。赤坂は逃げるように空き教室から出ていった。  それから、生徒を一人ずつ教室に呼んでは『さようなら』と挨拶させた。素直に言う奴、疑問を口にする奴、嫌がる奴、片っ端から脅しては吐かせていく。ついには泣き出す女子もいたが、やらなかったお前たちが悪いんだ。十数人やった後、今度は学級委員の堂本が来る。こいつは素直に言うだろう。俺はさっさと主旨を話した。 「じゃ、早くやってくれ」 「ごめんなさい。それはできません」
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