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昼休みを告げる鐘が鳴った途端、私たちはどちらからともなく手を繋ぎ、お弁当を持って教室を出る。二人笑いながら廊下を足早に抜けた。注意を促す先生方の声なんて、私たちの耳には届きはしない。誰にも邪魔されない中庭の隅で二人でお昼ご飯を食べることがルーティンだった。
淡い秋の光が木漏れ日を作り出し、私は万華鏡の世界に閉じ込められたような、そんな儚い美しさを感じていた。頬を撫でる風は涼しげで心地が良く、小鳥のように高く賑やかな光穂の声の後ろでは、私たちを見守るように紅葉が穏やかなメロディを奏でた。
「昨日クッキー焼いたんだよね、光穂に食べて欲しくて」
忍ばせておいたお弁当箱の蓋を開け、千差万別な焼き菓子を広げる。チョコを中に入れたものや、ハートの形のもの、色彩豊かなペンでデコレーションしたもの。様々な表情を見せる、愛着すら湧いてしまう手作りのクッキーを意気揚々と光穂に見せた。
見た目にこだわった傑作たちの中で、上手く焼けたものだけを厳選した。無論、味だって自信がある。
その中からチョコレートが入ったものを指で摘んだ光穂は、ひょいっと口へ投げ入れた。それを合図にして、あれよあれよという間に減っていくクッキーたち。彼女はハムスターのように頬を膨らませ、遠慮なんて言葉を知らない子供のように食べ進めていった。
「相変わらず食いしん坊だなぁ」
「だって千尋の作ったお菓子美味しいんだもん」
「光穂料理下手くそだもんね」
「それは言わない約束でしょ」
男子達がグラウンドで遊んでいる声が、風に乗って鼓膜を擽った。目尻をきゅっと跳ね上げ、からからと陽気な笑い声を上げる光穂。
私たちの友情は永遠だと、信じて疑わなかった。
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