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咄嗟に彼女の手首を掴んで制止する。確かに誤解を生む話だったが、奏が言いたかったのはそんなことじゃない事はわかっていた。 「…悪い、無理だわ。」 頬を叩かれた直後から下げていた視線を上げて、一つ、頷いた。 「ごめんなさい。無理言って」 衝撃で赤くに染まった左頬をそのままに、小走りで去っていった。奏の後ろ姿をこうして見るのは何度目だろう。 両親が不在だった彼女の家で一夜を明かした日の昼、彼女の買い物に付き合うために街に行くと、来慣れた通りに出た。どうしたって視界に入る、あの花屋。今日も、前と同じように綺麗な花を並べている。 一昨日の奏の事を思い返した。思えば初めての、奏からへの頼み事だった。それに、あの表情は、今まで見たことないくらいに辛そうだった。 ―― 月曜日、奏は学校を休んでいた。担任がホームルームで告げたのは、身内に不幸があったという事だった。夜、奏にメールを入れた。頭が全く働かず、“連絡をくれ“、という一文だけを送った。けれども結局はその日にメールが帰ってくることはなかった。 金曜日、移動教室の途中、保健室から出てくる奏を見つけた。 「奏っ。」 ゆっくりと上げられた顔は酷くやつれ生気が無く、どこかぼんやりとしている。触れれば溶けてなくなってしまいそうだ。 「南君」     
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