0人が本棚に入れています
本棚に追加
咄嗟に彼女の手首を掴んで制止する。確かに誤解を生む話だったが、奏が言いたかったのはそんなことじゃない事はわかっていた。
「…悪い、無理だわ。」
頬を叩かれた直後から下げていた視線を上げて、一つ、頷いた。
「ごめんなさい。無理言って」
衝撃で赤くに染まった左頬をそのままに、小走りで去っていった。奏の後ろ姿をこうして見るのは何度目だろう。
両親が不在だった彼女の家で一夜を明かした日の昼、彼女の買い物に付き合うために街に行くと、来慣れた通りに出た。どうしたって視界に入る、あの花屋。今日も、前と同じように綺麗な花を並べている。
一昨日の奏の事を思い返した。思えば初めての、奏からへの頼み事だった。それに、あの表情は、今まで見たことないくらいに辛そうだった。
――
月曜日、奏は学校を休んでいた。担任がホームルームで告げたのは、身内に不幸があったという事だった。夜、奏にメールを入れた。頭が全く働かず、“連絡をくれ“、という一文だけを送った。けれども結局はその日にメールが帰ってくることはなかった。
金曜日、移動教室の途中、保健室から出てくる奏を見つけた。
「奏っ。」
ゆっくりと上げられた顔は酷くやつれ生気が無く、どこかぼんやりとしている。触れれば溶けてなくなってしまいそうだ。
「南君」
最初のコメントを投稿しよう!