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叔母さんが目覚める事を待っていた奏にとって、あまりに残酷な現実だった。延命治療の中止をすれば、叔母さんは衰弱死を遂げていた。安楽死を望むなら、その方が最善だったのかもしれない。でも奏は、もう一度だけ、叔母さんに会いたくて、最期の望みをかけて、手術を決意した。
「生き返って欲しかったんだ。」
少しの望みに、頼っていいものか。あの日の奏はそれを自問自答する事しかできなかった。そして結局、自分を責めている。
「私が我儘を言ったから、最期まで辛い思いをさせちゃった。」
手の甲に落ちた一滴の雫を、奏に気づかれないように拭った。
手術室の前で、一人で、母親を待っていた奏を想うだけで、自分を殺したくなつた。不安、後悔、自責、それを全部、誰にも言えずに自分一人に閉じ込めて、母親の死を突き付けられた。
俺は結局、口だけだ。頼れと言っておきながら、護らなきゃいけない時に突き放した。
「明後日、お父さんのところに行くの。」
「叔父さん?駄目だ!…叔父さんが叔母さんを…」
「うん。でも、一人で生活して行けないから。お父さんはいいって言ってくれてる。」
叔母さんを意識不明に追い込んだ原因は奏の父親だ。そして叔母さんを庇って奏(かなで)も被害を受けた。事件当時は、俺の父親が通報した事が幸いして最悪の事態を免れた。けれど、離れてしまったらもう、今度、護れない。
「それでいいのかよ。」
「うん。」
「嘘つくなっ!」
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