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それは、俺も例外じゃない。今だって、偶々遭遇しただけだ。こいつが俺をお節介だと思うならいつも通り、知らないふりをする事だってできる。
「…酷くなる前にどうにかしろよ…叔母さん、心配するぞ」
あ、と思った時には手遅れで、気まずい空気が流れ始めた。こいつの前で母親の話題は、あまり出さないようにするべきだった。
沈黙を裂くように校内にチャイムが響いた。床から立ち上がり、手洗い場の下にあるバケツと雑巾を手にしたと思えば、元居た場所にしゃがみ込み、乾いた雑巾に水を浸透させはじめた。
「そんなの、放っておけ。」
「このままにしておくわけにはいかないよ。」
呆然としている俺を相手にしようとする様子も無く、床を拭く手を止めない。
「おい奏(かなで)。」
「片付けたら、帰るよ」
床を雑巾で擦る度に、髪の毛や小さな顎から水滴が垂れる。見るに堪えない光景に、今すぐにでも手首をつかんで、個室の外に引っ張り出したい気分だ。
廊下から声が聞こえてきた。ここに入ってくれば面倒な事になる。
「…じゃあな。」
床の水を構い続けてる後姿に一方的に告げる。これといった返事も聞かないまま急ぎ足でトイレから出た。運よく、聞こえていた声はどこかへと消えていた。
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