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驚いた。久しく聞いていなかった奏の笑い声が隣から聞こえたからだ。斜め下にある顔を見ると、笑ってる。思えばここ数年で、こんな笑顔を見たのは久しぶりだ。笑わなくなった時期が時期だけに、仕方のない事だと諦めていたけれど、こんな簡単に取り戻せるものなのだと安堵した。 「ここだ」 おしゃれなカフェや洋服屋が並ぶレトロな通りに面た、色とりどりな花が目を引く花屋。横顔を盗み見た。目を輝かせて、頬を染めて花をジッと見つめている。唇が小さく“綺麗”と動いたのを見逃さなかった。 「…ホラ、入るぞ」  急に恥ずかしくなって、顔を見られないように足早に店内に入った。 ―― 辺りがオレンジ色に染まり始めた。この季節は、比較的この時間でも暖かい。駅に向かう途中の公園のベンチに座り、何気なく目の前の噴水を眺める。 「今日はありがとう、南君。」 「…別に。まぁ、また来たきゃ言えよ。付き合ってやるから。」 膝の上に乗せている編み籠に入っている小さなブーケ。色とりどりの花が、可愛らしくラッピングに包まれている。 連れてきてよかった。花を選んでいる奏は本当に楽しそうで、きっと、叔母さんの好きな花と、叔母さんの喜ぶ顔を思い浮かべていた。 だから、余計に気になった。 「…叔母さん、良くなってるのか?」 「ぁ、うん」  良くなってない。相変わらず、嘘を付くのが下手すぎる。別に嘘をつく必要なんてないのに、いつもどこか人に遠慮してる。 「もう、三年くらいになるのか?」 「…うん」     
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