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軽口だとわかっている筈なのに、今の発言は今日一日こいつを無視するくらいには俺の機嫌を損ねた。“何にそんなにキレてるんだよ”という言葉に返事をしなかった。理由が、奏を馬鹿にしたことだなんていえば、またありもしない噂が広がるからだ。
放課後人の少なくなった教室から出ると、三人の女が行く先を阻んだ。
「奥野と付き合ってるってマジ?」
「…いや」
俺の返答に、二人の女が一人の女を急かし始めた。“早く言いなよ”“私達が言っちゃうよ?”という今まで何度も見て来た光景にうんざりした。これはまた、面倒な事になりそうな予感がした。
そして、それは的中し、話を聞いた事を後悔した。
明日は土曜で、奏と花屋へいく約束をしていた。奏に飾り気のないメールを入れた。内容が内容だけに返信が来るまでの間は何も考えられなくて、掌にじっとりと嫌な汗をかき続けていた。
“メールありがとう。わかったよ、明日は一人で行ってくるね。奏 ― END ―”
夜、二十二時頃に返ってきたメールに安堵するどころか、罪悪感が沸き上がった。電話をかけようか迷っていると、タイミング悪く着信が鳴った。
電話が終わったころには夜の十二時を回っていた。電話の相手は、今日俺に告白してきた女だ。告白を受けたのをいいことに、明日から毎週来る休日や放課後を自分とのデートに充てるよう理不尽な条件を押し付けて来た。。
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