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奏に埋め合わせの予定を聞こうとした矢先の事だった。これでもう、奏と花屋へ行くことはできなくなった。
――
学校の廊下で奏を見つけた。一人で歩く背中に声をかける。一昨日の事を謝ると、気にしていないと首を横に振った。埋め合わせをすると言うと表情が強張り、曖昧な返事をして教室に入っていった。
こんな事が続き、気が付けば奏は花屋に行きたいと連絡を寄こすこともなくなり、俺も、奏に声を掛けなくなっていた。やっと縮まっていた奏との距離が、また開き始めている。
数週間が経ったある日の放課後、職員室に呼び出された彼女を誰もいない教室で待っていると、誰かが廊下を通る気配がした。淡い期待を持って、教室の扉から廊下を覗くと、奏の姿があった。
かけた声に全くと言っていい程の無反応と訪れた沈黙。なんとなく、嫌な予感がした。
こっちを向こうとしない顔を覗き込んで、全身から血の気が引いた。赤く、酷く腫れた頬を塗らしている涙。下瞼に血が滲んで、瞼が痛々しく腫れている。
「かな…」
掴んだ二の腕を今までないくらいの強い力で振り払われ、廊下を走り去っていく後姿に何も言えず、呆然とした。
居てもたってもいられず、帰宅しながら奏の携帯にメールを何度も入れた。でも、一向に返信が返ってこない。電話をかけても、出ない。
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