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※
「これはどういう事ですか?」
悪いことは次から次へと舞い込んでくるもので、抵抗しようにも無駄なことがある。
それは帰りの会のことだった。目をつり上げた先生の手には百点と描かれたプリントが握られ、名前を呼ばれた大盛君は、恥ずかしそうに大きな体を縮こまらせていた。
「正義君。これは君が解いたの?」
「確かに解きましたけど」
同じように指名された僕も、先生の追求を受けることになる。宿題の丸付けを終えた先生は、大盛君が満点だったことに疑問を持ったらしい。
何とも可哀想な話だけれど、あれだけ授業中に注意されてばかりで勉強をしない彼が、突然満点をたたき出すなんて確かに不思議な話だ。親に教えてもらったと繰り返す大盛君の目には、余計な事を言ったらどうなるか分かっているだろうなという殺意が込められていた。
「僕は自分のプリントは家に忘れてきたので」
「本当に?」
「はい」
優等生の僕が言うことだからだろうか。それとも、これ以上面倒なことはやめてくれという僕の思いを察知したのか、先生はそれ以上の追求を止めて、帰りの挨拶を済ませた。
「危ないところだったな」
「楽しんでたでしょ」
「思い切って言っちまえば良かったんだよ」
「百瀬さんはそうしたそうだったけどね」
淡々と事を済ませた僕に、百瀬さんは隣の席から恨めしそうな視線を送っていたが、僕は気にすることなく帰り支度を済ませると、教室を後にした。
「これからどうすんの?」
「図書室にいく」
「またかよ」
「まただよ」
家に帰って両親が帰ってくるのは遅いので、僕は可能な限り学校に残って時間を潰すことにしていた。図書室の先生とは随分と仲が良く、担任の先生よりも話をするかもしれない。
「このままだと、卒業するよりも早く全部の本を読み終えちゃいそうね」
「はい。そのつもりです」
小学生低学年向けの絵本はあっという間に読み終えて、高学年向けの本に手を伸ばそうとしていたが、図鑑の制覇に手間取っていた。
「読みたい本があったら教えてね」
「ありがとうございます」
読みかけの本を鞄から取り出した僕は、定位置となった席に座って、早速物語の世界に飛び込んだ。ここだけが唯一、面倒な現実を忘れて、自由に動き回ることが出来る場所だった。
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