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対峙したガキ大将が愉快そうにボールを弾いている。僕の後ろには右腕を赤くさせた百瀬さんがいる。もう避けることは出来ない。
「どうすれば」
そうアイトに尋ねるが、彼は「お前の力を見せつけてやれ」と顎で指示をするだけだ。
「無理だよ」
「無理じゃない」
「できないよ」
「できるよ」
アイトの声が頭の中に響く。
「僕にはアイトがいないと」
「俺がいなくても、もう大丈夫だよ」
ここまで善戦できたのは、アイトが僕を上手く使ってくれたからだ。
一人の孤独に疲れ果て、心を閉ざさずに生きてこれたのは、今日までアイトが傍にいてくれたからだ。
「これで終わりじゃないよね」
「そうだな」
「嘘でしょ」
「へへへ、また会えるさ」
「ホントに?」
「おう、それまで暫しの別れだ」
楽しかったぜ。
そう言って煙のように空気に溶けていくアイトの身体を突き抜けるように、剛速球が飛んできた。
しかし、知らぬ間に逞しくなっていた僕の身体は、その勢いをしっかりと受け入れると、直ぐにカウンターを仕掛けた。
最近、意識を失うように眠ることが多くなっていたのは、アイトが勝手に僕の身体を鍛えていたかららしい。
「ほんと、勝手なんだから・・・・・・」
僕は、アイトに別れを告げるようにボールを力一杯投げつけた。
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