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※  大学進学を機に、実家を離れて一人暮らしする事になった僕は、自分の部屋の大掃除をすることにした。  長い受験勉強から漸く解放されて、これまでの苦労を発散するように、溜りに溜った参考書やプリントの山を一掃するついで、押し入れの中まで手を伸ばした時、ふと、古びたクッキー缶が目に入った。  それは随分と懐かしいデザインで、最近の物ではないことだけはわかったが、一体いつ入れたのか記憶はない。  そこだけ時間が止まっていたかのように、薄らと埃を被っている缶に手を伸ばした僕は、ゆっくりと蓋を開け、中をのぞき込んだ。そこには、黄ばんだ一枚の画用紙が折りたたまれて入っていた。  それは、僕が小学校低学年の頃に描いた絵日記で、簡単だが小学生にしては上手な自画像の隣には、同じような男の子がもう一人描かれていた。  彼の名はアイト。  嘗て、僕が最も親しく、最も信頼していた少年だが、この絵日記を見つけるまで、僕が彼について思い出したことは、一度もなかった。
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