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アイトと僕と
※
その当時、共働きだった両親は仕事が忙しく、家にいたとしても僕に構ってくれる時間は殆どなかった。だから自然と、絵本を読んだり、楽器を弾いたり、静かに時間を潰すことが得意になった。そんな僕の隣にはずっとアイトがいたからか、不思議と寂しさを感じる事はなかった。
アイトは物心ついたときから、ずっと僕のそばに居た。寝る時も遊ぶ時もお風呂の時も、僕たちは一緒に行動し、同じ体験を共有していた。引っ込み思案だった僕に対し、アイトは活発な少年で、いつも彼の後を追うように生活し、何をするには彼の言うとおりだったと思う。
体が小さかった僕は、グランドで遊ぶ同級生たちの輪の中に入ることを好まず、木陰で彼らが動き回る姿を見ているような子どもだった。それは小学校に進んでも変わらず、寧ろ、酷くなっていたように思う。
図書館には数え切れないほどの本があって、何よりも魅力的な場所だったし、それにグランドには、僕よりも体の大きな上級生たちが、偉そうに闊歩していて恐ろしかったからだ。だから僕は、お昼休みの時間にはいつも図書室にいた。
「偶には陽の光を浴びようぜー」
「僕は良いよ。アイト一人で行ってきなよ」
「太陽光を浴びないと病気になるぞー」
「ビタミンDが不足するんだっけ? よく知ってるね」
「そりゃ、ずっと図書室に籠もってたらな」
アイトは体を動かすことが好きだったけど、僕がグランドに行かない限りは、ずっと傍にいた。かといって一緒に本を読むわけでもなく、退屈そうに机の上に寝そべっては、僕を笑わせようと、ちょっかいばかりしてくる。
「わかったよ。ここまで読んだらね」
「やったぜ!」
彼の変顔に思わず吹き出してしまった僕は、周りの視線を集めた恥ずかしさに耐えきれず、図書室を後にすると、駆けだしていったアイトの後を追ってグランドに向かった。
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