歓迎ムードじゃないけれど

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 ぼくがお辞儀をすると、少女はさきほどより、もっと驚いた顔をした。きっと、自分の父親よりまともな人間が親戚にいるなんて、思いもしなかったんだろうな。 「家出少年じゃないの?」  こんどはぼくが驚く番だった。予想もしない少女の答えに、たじろいでしまった。 「ユウジに親戚の家の子だって言えって、言われたんでしょ」  ぼくがポカーンとしていると、おじさんが台所に入ってきた。嬉しいことに、ゴーグルも新聞紙も付けていない。 「リン、グラス取らせてくれ。麦茶が残ってたっけ」  リンと呼ばれた少女は甲高い声で質問した。 「ねぇ、ユウジ。あの子、ユウジの親戚だって言ってるけど、嘘でしょ。いつもの家出少年でしょ」 「嘘なんかじゃない。慎治はおれの甥っ子だ」  おじさんは、リンの背後にある水切りかごからグラスを取り、麦茶を注いだ。 「嘘だ。ユウジ、まえに家族なんていないって言ってたじゃん」 「よせよ、リン」  台所に、ぼくよりいくらか背の高い日焼けした少年が入ってきた。見た目は中学三年生くらいで、腰には「肉(にっ)好屋(こうや)」というロゴの入った黒いエプロンを巻いていた。 「もうそろそろ昼メシの時間かと思って、帰ってきたのに。まだできてねえじゃねえか」  少年は切れ長の細い目でぼくをチラッと見てから、リンに向き直った。     
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