6人が本棚に入れています
本棚に追加
/273ページ
ぼくがお辞儀をすると、少女はさきほどより、もっと驚いた顔をした。きっと、自分の父親よりまともな人間が親戚にいるなんて、思いもしなかったんだろうな。
「家出少年じゃないの?」
こんどはぼくが驚く番だった。予想もしない少女の答えに、たじろいでしまった。
「ユウジに親戚の家の子だって言えって、言われたんでしょ」
ぼくがポカーンとしていると、おじさんが台所に入ってきた。嬉しいことに、ゴーグルも新聞紙も付けていない。
「リン、グラス取らせてくれ。麦茶が残ってたっけ」
リンと呼ばれた少女は甲高い声で質問した。
「ねぇ、ユウジ。あの子、ユウジの親戚だって言ってるけど、嘘でしょ。いつもの家出少年でしょ」
「嘘なんかじゃない。慎治はおれの甥っ子だ」
おじさんは、リンの背後にある水切りかごからグラスを取り、麦茶を注いだ。
「嘘だ。ユウジ、まえに家族なんていないって言ってたじゃん」
「よせよ、リン」
台所に、ぼくよりいくらか背の高い日焼けした少年が入ってきた。見た目は中学三年生くらいで、腰には「肉(にっ)好屋(こうや)」というロゴの入った黒いエプロンを巻いていた。
「もうそろそろ昼メシの時間かと思って、帰ってきたのに。まだできてねえじゃねえか」
少年は切れ長の細い目でぼくをチラッと見てから、リンに向き直った。
最初のコメントを投稿しよう!