素敵な出会いじゃないけれど

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素敵な出会いじゃないけれど

 初めて会ったぼくのおじさんは、母さんの言っていたとおり変人だった。ここがプールでもないのに水泳用ゴーグルを付け、全身に新聞紙を貼りつけてぼくを迎えたのだ。大きなスーツケースを持ったぼくが一人戸口に立っていても、眉ひとつ動かさずに「ああ」と呟いて店に招き入れた。  おじさんの経営している店は薄暗くて狭い雑多なところで、ねずみが出そうだったけれど、ぼくは母さんの言いつけどおりに自分で判断して中に入った。母さんとの夏休みの約束はこうだった。 「おじさんは決してまともな人ではないから、おじさんの言うことはなるべく聞かないこと。もし判断に困ることがあったら、母さんの普段言うことを思い出して、それに合った行動をとること」  母さんとの別れは急で忙しいものだったけれど、おじさんを一目見て、この約束は的を射ていて的確なものだと思った。  おじさんの店はあまり中学生向きではなかった。  コーヒーのしみが付いた絨毯や中身のないお茶缶、自転車のベルに破れた切手、針が四本ある目覚まし時計に煤だらけのパイプなど、わけのわからないガラクタが所狭しと置かれていた。     
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