嵐のなかではあるけれど

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嵐のなかではあるけれど

 つぎの日の朝、わざと遅れて台所に下りていった。予想どおり、だれもいない。風の強さが昨夜より増し、家全体がガタガタと音を立てていた。雨戸を閉めているので余計に蒸し暑い。  リンは、台所にある裏口の外で洗濯物を干していた。家の裏には狭い、通路とも呼べないようなスペースがあり、そこに物干しざおが立てかけてあった。台風が連れてきた、空を覆う厚い雲のせいで、余計に日当たりが悪く、風が、物干しざおにハンガーを掛けるのを阻止しようとしていた。ぼくは手を貸したかったが、気まずいのと、リンの目が赤く腫れているのとで、声をかけることすらできなかった。  テーブルの上に、一人分の卵焼きとごはんがちゃんと残されているのを発見し、目頭がジーンと熱くなった。  朝食をもそもそと食べ終わると、シャワーを浴びた。昨夜は風呂に入りそびれてしまい、服もそのままで汗臭かったのだ。脱衣所で新しい服を着ていると、ドア越しにアスカの声が聞こえてきた。 「さっきそこでユウジに会った。トイレットペーパーを買いにいくって」 「わたしが全部隠したの」  リンがにやりと笑う姿が目に見えるようだ。 「慎治は?」     
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