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「あのー、もし迷惑じゃなければ隣に座っても?」  女の人は自分に声をかけられたことに気づいたらしく、少しこちら側にスペースをつくるように横に座り直し「どうぞ」と返してくれた。僕は軽く頭を下げて同じベンチに座る。  ベンチの横の長さは人が二人座ってちょっとしたスペースができるくらいのちょうど良い長さだった。  座ったのは良いものの沈黙が訪れる。しかし大丈夫、これも作戦のうちだ。なにせすぐに話しかけては余計な警戒をさせてしまう恐れがある。あえてただ座りに来ただけなのだと思わせるような時間をつくっているのだ。そして再び女の人の方へ顔を向け声をかける。 「人待ちですか?」  女の人は一度こちらを向き、再び顔を正面に向けるとゆっくりと公園にいる人たちを見回すようにしながら答えてくれた。 「いえ、この公園で元気に遊んでいる子供たちを見てるんですよ」 「遊んでる子供を見てる、か。いいよね。僕もそういうの好きかも」 「本当ですか!」  相手は嬉しそうだ。これが優也から教わった作戦の一つ『とりあえず相手の好きなことを肯定して共感する』だ。しかし実際の僕は普段外に出ていない、つまり公園で遊んでいる子供を見るのが好きとか嫌いとかそういう価値観は持っていなかった。それでも作戦なのだから仕方がない。 「本当本当! 公園で子供を見ること以外は、普段はなにしてるの?」  掘り下げられるとボロが出かねないので、すぐに次の話題に移す。 「普段ですか? うーん……」 「家にいるときとかさ」 「そうですね……本を読んだりしていますね。本が好きなので」 「本かー、いいよね! 僕も読書好きかも!」
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