2人が本棚に入れています
本棚に追加
バスに乗った迫田くんに手を振る。
迫田くんは吊皮につかまって、笑顔で軽く会釈する。
遠ざかっていくバスの後ろを見ながら、さやかは伸びをした。
今日分かった事は、迫田くんだけに適用できることなのかも知れない。
でも、少なくとも、
母の言っている事は、全部本当ではないわけだ。
近づかない事は必ずしも正しい事じゃないし、
きっと、ポーチで待っていた方がいい場合だってあるだろう。
これって、汚れはじめだろうか?
そもそもなぜ、汚れるって母は言うんだろうか。
そんなことを考えながら歩いていたら、家に着いた。
「ただいま。」
「お帰り。遅かったね。誰といたの?」
母の声が今は、さやかにはとがって聞こえる。
「委員会だよ。」
足早に階段を昇り、部屋に入る。
先ずしようと思っていたことがあった。
さやかは胸ポケットから大切そうに
麗子からもらったヘアゴムを取り出すと、勉強机に置いた。
髪の房から、もぎ取るように真っ黒なカラーゴムをはずす。
掌に載ったそれは、まるで自分から剥げおちた
古い皮のようにさやかには見えた。
考えること、たくさんあるなあ。
お別れの挨拶でもするように少しの間見つめると、
さやかは屑籠に、
まるで輪投げでもするようにカラーゴムを放った。
最初のコメントを投稿しよう!