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未通女《むすめ》
娘を地味に仕立て上げるのが、
さやかの母は好きだった。
若い娘は、飾らなくても
内側から耀く若さで十分美しいからと
さやかには言い聞かせていた。
本当は、
男の気を引く飾りは中学生には必要ない、と考えているのだと
さやかは思っている。
「森山さん。」
めったに話しかけてこないクラスメイトが
にやにやしながら声をかけて来た。
後にやっぱりニヤニヤ、ひそひそ内緒話をしている
取り巻きを従えている。
「3組の佐山君、分かる?
放課後、中庭の薔薇のポーチの所で待っててって。」
じゃあ、と言って、クラスメイトと取り巻きは
雀の大群のようにばたばたいなくなった。
「さやか、可愛いもん、告白だよ。いいなあ。」
なんであんたなんかに、と書いてあるひきつった笑顔で、
言いたくない事を仕方なく言っている口ぶりで
友達づらした傍らのクラスメイトが言う。
佐山君は来なかった。
さやかは1時間待った。
クラスメイトが一人でやってきて
「ごめん、平尾さんだったの。もう帰っていいよ。」
とだけ言って、歩き去った。
佐山君は
さやかの他にもう一人いるおさげ髪の娘に
待っていてほしかったらしい。
恥ずかしかった。
もう学校に行きたくなかった。
慰められたくて、母には努めて明るく、
笑い話の様に話したつもりだった。
母は、
そんな話を真に受けて
よくもそんな所に
そんな長い時間待っていたものね、
バカじゃないの?
と激怒した。
色気づきやがってと言いたかったのかも知れない。
平尾さんは、ポーチで待つこと自体をお断りした
と後で聞いて、さやかは尚更暗い気持ちになった。
さらに悪い事に、
平山さんがお断りしたことを、うっかり母に言ってしまった。
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