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制服が夏服に変わって数日した放課後。 「森山さんて、スレンダーグラマーだよね」 意外な声に、さやかは驚いて振り向いた。 茶髪でつけまつげをした、この学校には珍しく厚化粧した 木ノ下麗子が ショッキングピンクに塗りたくられた厚い唇を尖らせて言う。 「制服全然改造してないよね?だけどウエスト細いのはっきり分かるもん。 胸だって結構あるしさ。Cカップくらいあるんじゃねぇ?って大迫が言ってたよ。」 大迫君は、クラスでも真面目で通っている男子生徒だ。 なんで大迫君が、女性下着のサイズの名称を知っているんだろう。 なんで大迫君が、私の胸を見るんだろう。 なんで大迫君は、そんなことをするんだろう。 さやかの背中に、悪寒が走る。 「…」 「脚だって細いしさ。何かやってんの?エアロビとか? 体育会系の部活とか入ってないもんね。」 麗子はグラマーな体型になりたいらしかった。 化粧して、制服の脇をつめて、スカート丈を短くして、 私は成熟した女ですっていうアピールは十分じゃない? と言いたいのをさやかは呑み込む。 「…なにもしてないよ。運動は、歩いて通学してるくらいだよ。 家学校から遠いし。 私ずんどうだよ。スカートのベルト芯、ゴムなんだ。」 口から出まかせを言って鞄を机の上から取り上げる。 「ゴム?」 麗子がくっくっとさも可笑しそうに笑う。 「森山さんてさ、なんでいっつも真っ黒いカラーゴムで 髪止めてんの? ここって、そんな校則うるさくないよ? もうちょっと可愛いのしたら?これあげる。」 麗子は手首からするり、と何かはずし、 反射的に出したさやかの掌に載せた。 白いゴムに金色のチェーンと大きめのフェイクパールがついた きれいで可愛いヘアゴム。 吸い付くようにヘアゴムを凝視しているさやかを見て、 麗子は満足げにふふ、と笑った。 「じゃーね。」 ピンクに塗った爪が揺れる。 顔を上げると、マニキュアだけでなく、指輪も、 ブレスレットも麗子の手と手首には嵌っていた。 ヘアゴムを胸ポケットに押し込み、 さやかも廊下に出る。 廊下で、友達と話しながら前を歩く大迫君を追い越そうとして、やめた。
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