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委員会の日
「森山さん。」
帰ろうとしたさやかを迫田君が後ろから呼び止めた。
「はい。」
さやかは首だけ振り向ける。目を合わさない。
「あの…。」
迫田君が言葉を詰まらせる。
「なんでしょう?」
背の高い迫田君をキッとにらみつける。
意外な事に、迫田君は困り果てた顔をしている。
「今日さ、環境委員会の日でしょう?
おれ…僕と森山さん、環境委員じゃなかったっけ。」
「あっ…」
さつきは思わず口に手をあてる。
忘れていた。
頬が紅潮してくるのが分かる。
「ごめんなさい!」
反射的に頭を下げ、見上げた顔にさやかは驚いた。
あれ…!?
早くて力があって粗野で野蛮で怖いはずの生き物が、
ほっとしたような顔をして、にっこり笑った。
「確か、生徒会室でしたよね、今すぐ行きます。」
「ああっ。待て…。待って森山さん!」
踵を返し早足で急ぎ始めたさやかに迫田君が追いつき横に並ぶ。
ポーチの一件から、さやかは男子には極力接触しないようにしていたので、
こんなに男子に近づいたのは高校に入って初めてだ。
なんだか迫田君の熱が温かく伝わってくる感じだ。
「森山さん、あのな、聞け…聞いて。場所変わったんだ。」
この人は、言葉を選んで私を怖がらせないようにしているのかな、と
さやかは思った。
自分のどこかが、柔らかく、ほぐれていくのをさやかは感じる。
「そうだったんですか。あの…どこに変わったんでしょう?」
「地学教室。新館なんだ。行ったことある?」
さやかには何故か迫田君が一生懸命で、ちょっと緊張しているように
見える。
可愛そうになってきた。
「…ないです。行ったらわかるんじゃないかしら。」
「じゃあ、あの、一緒に。」
「そうですね。」
迫田君はあまりにもうろたえていて、「行きましょう」が
言えないみたいだった。
さやかは笑いかけてやった。
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