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屑籠
迫田くんはさやかに
「送るよ」
と言ってくれた。
「まだ明るいから大丈夫。」
というさやかの返事に迫田君の顔がたちまち曇って、
泣きそうに見える。
お互いがお互いをどう扱っていいか分からない感じなんだな、と
さやかは思う。
少なくとも迫田くんは、
母が言うように粗野で野蛮で、
私に危害を加えるつもりの人じゃないらしい。
地理教室を探して並んで歩いた時、
ほんの一瞬、ノートを持った迫田くんの腕にさやかの腕が触れた。
柔らかい、すべすべの、さやかの肌と似た肌触りだった。
粗野で野蛮な生き物に想像していた、ごつごつした硬いものでも、
象の皮膚みたいなざらざらでもなかった。
「迫田くんはバスでしょ?じゃあ停留所まで。」
迫田くんは満足そうに、ちょっとはにかんだ感じで笑った。
お互い委員会出席をねぎらった後は、言葉少なに歩いた。
迫田くんはさやかに歩調を合わせてくれたようだった。
迫田くんがバスに乗るまで、停留所で話した。
委員会の事や、家族の事を少し話した。
姉がいて、時々目のやり場にね、困るんだと迫田くんが頭をかいた。
あー…それで。
それだけじゃないかも知れないけど、今は置いておこう、
クロリスとゼフュロスの話。
3000年以上前の人々が伝えた神話を
500年以上前のイタリア人が描いたのだ。
その当時のギリシャ人の考え方、イタリア人の考え方、
私には知らない事が多すぎる。
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