第三章 秋

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それは私が、銀杏(イチョウ)の葉のサンプルを求めて研究所の外に出た日だった。 研究所の中庭には大きなイチョウの木が十本生えている。 季節はちょうど葉が黄色く色付き始めた秋だった。 私は綺麗な葉を三枚選ぶと、自室に戻ろうと取って返した。 研究所の入り口で、彼らは私のことを待ち構えていたかのように、横並びに揃って座っていた。 そして、私のことをじっと見ていた。 屋外にペットがいるのは非常に珍しい。 昔はノラネコという存在があったらしいが、今の時代には聞いたことがない。 どこかから何かの拍子に外に出てしまったのかもしれない。 しかし、調べてみても、体内にマイクロチップも埋め込まれていなく、識別信号も発していなかった。 迷い猫の届け出も、捜索願いもどこにも出されていなかった。 飼われていたのは間違いないようで、人間には慣れていた。 二匹とも、理由は定かではないが、奇妙なことに私に懐いた。 しかるべき所に問い合わせると、昔は保健所という施設があったらしいが、今はもうないので、預かって欲しいと言われた。 数日預かるだけのつもりだったが、結局飼育の手続きを済ませて、そのまま一緒に暮らしている。 「そうか、もう5年か──。ところでヒサギ、人間はどうして死ぬんだろうか?」 重い質問が飛んで来た。私は0.8秒で生物学的な答えから、哲学的な答えまで四通りほど思い付く。 彼が求める答えは、どのタイプだろうか?
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