90人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
それは私が、銀杏の葉のサンプルを求めて研究所の外に出た日だった。
研究所の中庭には大きなイチョウの木が十本生えている。
季節はちょうど葉が黄色く色付き始めた秋だった。
私は綺麗な葉を三枚選ぶと、自室に戻ろうと取って返した。
研究所の入り口で、彼らは私のことを待ち構えていたかのように、横並びに揃って座っていた。
そして、私のことをじっと見ていた。
屋外にペットがいるのは非常に珍しい。
昔はノラネコという存在があったらしいが、今の時代には聞いたことがない。
どこかから何かの拍子に外に出てしまったのかもしれない。
しかし、調べてみても、体内にマイクロチップも埋め込まれていなく、識別信号も発していなかった。
迷い猫の届け出も、捜索願いもどこにも出されていなかった。
飼われていたのは間違いないようで、人間には慣れていた。
二匹とも、理由は定かではないが、奇妙なことに私に懐いた。
しかるべき所に問い合わせると、昔は保健所という施設があったらしいが、今はもうないので、預かって欲しいと言われた。
数日預かるだけのつもりだったが、結局飼育の手続きを済ませて、そのまま一緒に暮らしている。
「そうか、もう5年か──。ところでヒサギ、人間はどうして死ぬんだろうか?」
重い質問が飛んで来た。私は0.8秒で生物学的な答えから、哲学的な答えまで四通りほど思い付く。
彼が求める答えは、どのタイプだろうか?
最初のコメントを投稿しよう!