第一章 春

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同じなのは山そのものの形と、そこに生えている木々だけで、そこに生きる動物も、虫も、ある物は死に、ある物は冬の眠りに就き、起きている物も必要最低限の営みしかしていない。 木々ですら葉を落とし、深い眠りに()いているではないか。 冬は山そのものが冬眠している。 だから──、 「淋しいに決まっているじゃないか」 ふと口にしてしまってから、人の気配を感じて振り返って背後を見た。 誰も、居なかった。 辺りを見回してみるが、前にも後ろにも道が──(かす)かに識別できる程度の獣道(けものみち)の様な心許(こころもと)ない山道が、山桜の木々の合間を()って細々と続いているだけだった。 道の両側はどちらも急な斜面で、片方は壁のように、もう片方は崖の様に切り立っている。 どこにも人影は見当たらなかった。 私は山菜の入ったカゴを背負い直し、再び歩き始めた。 額に一粒、水滴が当たった。
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