90人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
同じなのは山そのものの形と、そこに生えている木々だけで、そこに生きる動物も、虫も、ある物は死に、ある物は冬の眠りに就き、起きている物も必要最低限の営みしかしていない。
木々ですら葉を落とし、深い眠りに就いているではないか。
冬は山そのものが冬眠している。
だから──、
「淋しいに決まっているじゃないか」
ふと口にしてしまってから、人の気配を感じて振り返って背後を見た。
誰も、居なかった。
辺りを見回してみるが、前にも後ろにも道が──微かに識別できる程度の獣道の様な心許ない山道が、山桜の木々の合間を縫って細々と続いているだけだった。
道の両側はどちらも急な斜面で、片方は壁のように、もう片方は崖の様に切り立っている。
どこにも人影は見当たらなかった。
私は山菜の入ったカゴを背負い直し、再び歩き始めた。
額に一粒、水滴が当たった。
最初のコメントを投稿しよう!