第二章 夏

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私は子供の頃に彼に出会っている。 どこかで会ったことがあると感じたのは、気のせいではなかった。 だから彼は私の名前も知っていたのか? どうして私は彼のことを忘れていた? それどころか、山で迷って崖から落ちたなどという一大事まで忘れてしまっていた。 辛い記憶として封印してしまっていたのだろうか? 自分の記憶に、どんどん自信がなくなっていく。 自分自身のことなのに、重大な出来事のはずなのに、何故忘れることができたのだろうか? しかし、あれから二十年近く経っている。 ヒイラギは年を取っていないのか? やはりこの山の中に取り残されている間は、年を取らないのだ。 たった一晩のつもりだが、詩季村に戻ったら何年も、何十年も経っているかもしれない。 そもそも、私はここからは抜け出せないに違いない。 そんな予感がする。 それに、森の中で迷ったことは思い出したが、何故一人で森の中に入ったのかは、いまだ謎のままだ。 村から一人であんな所まで登ったのか? それとも──。
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