第二章 夏

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≪詩季村にて採集した伝説・乙≫ ある時、村に他所(よそ)から見知らぬ男がやって来た。 彼は村の娘と恋に落ち、夫婦となって村に残った。 二人は幸せそうに暮らしていた。 男はたいそう勤勉で、真面目に働いた。 ある年の冬、冬眠し損なって飢えたクマに村が襲われた。 何人もの村人が犠牲になり、その中には娘も含まれていた。 男は嘆き悲しんだ。 春になると男は山の中で暮らすようになり、やがてオオカミを手なずけて一緒に暮らし始めた。 村の者が彼を見かける度に、オオカミの数はどんどん増え続けていた。 村人たちは男がオオカミを使って妻の(あだ)を討つつもりなのではないのかと噂していた。 その後、彼が敵討(かたきう)ちに成功したかどうかは分からない。 今でも時折、オオカミの遠吠えが聞こえてくるが、彼の姿を見た者は誰もいなかった。 【エノキ・ヤスユキ著『詩季村の伝説』より抜粋】
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