90人が本棚に入れています
本棚に追加
第三章 秋
1
森の中は秋だった。
大気は暖かいが湿度は低く、それ故どこか奥の方にヒリヒリとした、凛々しい冷気を湛えている印象を与えてくれる。
眼前に広がる黄色いパノラマ。
銀杏の葉が視界を埋め尽くす。
ヒラヒラと舞い落ちる葉が、足下に黄色い絨毯を織り上げて行く。
私は足元の一枚を拾い上げて、掌の上に乗せて眺めた。
葉脈の一本一本までもが本物と遜色なく再現されている。
陽に透かして見ても不具合はなく、我ながら見事な出来映えだった。
その時、葉の遥か向こう側に、見慣れぬ樹が一本見えた。
そちらに照準を合わせる。
明らかに銀杏ではない大木だ。
青々とした葉は桜のようだが、幹の様子は松に近い。
こんな木は、私のデータベースには存在していない。
しかも、幹の真ん中には縦に二つ大きな穴が空いている。
穴は貫通していて向こう側が見え、その周囲は膨張して、まるで数字の8が埋め込まれたような格好だ。
念のために記録を確認してみるが、あんな木のデータはどこにも存在しなかった。
不具合だろうか。
他にはどんな可能性があるだろうか。
頭を巡らせていると、ポツリポツリと雨が降ってきた。
こんなプログラムはしていない。
これは最早、不具合というよりは暴走だ。
暴走の要因に思い当たる節はないが、アプリケーションを再起動した方が良さそうだ。
そんなことを思いながら歩いていると──。
最初のコメントを投稿しよう!