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泥濘んだ道を踏み外して崖のような急斜面を転げ落ちてしまった。
視界がぐるぐると目まぐるしく回転し、15回転して漸く身体が止まった。
斜面の途中の、3メートル四方の平らになったスペース。
プログラムしてあった安全装置が働いたのだ。
雨はまだ降り続いている。
立ち上がって確認すると、服は汚れていないが、皮膚が濡れている感触はあった。
ケガをしたり痛みを感じたりはしないように設計されてはいるが、こんな所までリアルに作り込まなければ良かった。
改善点として記録しておく。
崖の上を見上げる。
果たして、この急斜面を登るにはどうしたら良いだろうか。
頭の中でのシミュレーションの結果、直ちにアプリケーションを終了させるのが最適解と出た。
オペレーティングシステムに指示しようと口を開きかけた時、微かなアラームが聞こえ、森が消失した。
それと同時に辺りは見慣れた私の研究室へと戻る。
足元では、一緒に暮らす二匹のネコが、怪訝な表情で私を見上げていた。
彼らには私が何も無いところでバランスを崩して膝をついたり、何も持っていない掌を見つめていたりする様子が、さぞおかしく見えたことだろう。
握りしめていた拳を開くと、持っていた落ち葉は既に消えていた。
掌だけが中途半端な高さで浮かんでいる。
鳴り続けているアラームを止めて、時計を確認する。
待ち合わせの時間だった。
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