第三章 秋

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環境シミュレーターの起動実験を終わらせて、私はスケジュール通り、待ち合わせの場所へと向かう。 このシミュレーターは私の仕事とは関係がない。 仕事がない時に、私が暇を持て余していることを知った友人から、趣味の一つでも持ってみると良いと勧められたのが契機だった。 空いた時間に、仕事とは無関係なことに労力を使う──多くの研究者が趣味と称して没頭しているそうだ。 そういう無駄なことをするのが人間らしさなのだろう。 ドアが開くと()かさず出ようとするネコ達を、なんとか中に押し戻して私は部屋を出た。 何故ネコはこちらの要望と反対のことしかしないのだろうか。 まるでこちらの行動を見透かしているようだ。 友人と待ち合わせている出発ゲートへと向かった。 ゲートは同じ建物内にあるので、屋外には出ない。 寄り道をしなければ359歩で着くだろう。 待ち合わせの三分前に到着する予定だ。 友人はいつも時間ぴったりにやって来る。 今日も同じだろう。 今日は彼が出張に出る日だ。 少しばかり重要な任務を帯びた出張である。
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