第三章 秋

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もう随分と前から、地球上の人口の大多数は都市部に集約され、地表の大部分は自然保護区となっている。 都市部はドーム状の半球で覆われており、環境は常に人間が快適な生活が出来るように保たれている。 保護区内には特別な許可がなければ入れない──と言うより、ドームから出るには厳密な審査がある。 なぜ厳しくしているのか──。 そもそも誰も用事がないので、出ようともしないのだが、時折、自然回帰を(うた)った集団が強引にドームを抜け出し保護区に侵入しているからだ。 それらの集団は、政治的であったり、宗教的であったりバラエティに富んでいたが、私が観察した限りでは、そのどれもが、お世辞にも賢くはなさそうだった。 そうした連中の例に漏れず、威勢だけは良かった。 しかし、いずれも一年も()たずに逃げ帰ってくるという。 今の時代の人間には保護区の環境は、長期的な生存に適していない。 保護区の中では、人間が排除された生態系が維持されている。 その生態系は、大型肉食獣を頂点にしたピラミッドなのだが、それを維持するのがなかなか困難だと聞く。 既に滅んでしまった種があるからだ。 特にピラミッドの上部、中型・大型の肉食獣が欠けているのは致命的だった。 人間が介入しないと均衡が取れない。 どうしても、草食動物が増えすぎてしまうのだ。 そのために必要とされたのが、生物回生学(バイオロジカル・レザレクトロジー)だった。
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