第三章 秋

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絶滅種の再生には、基本的には剥製や標本が利用される。 それらからゲノムを採取するのだ。 ところが──稀にある事だが──剥製や標本の数が極端に少なかったり、保存状態が劣悪だった場合には、自然繁殖に必要な個体数を再生できないことがある。 自然繁殖を維持するには、近親交配を防ぐためにも、数十の異なるゲノムが必要だった。 当然ながら、個体数がどれだけ多くても、同一個体のクローンばかりでは、子孫を残せない。 そんな時には別の方法でゲノムを手に入れなくてはならない。 直接、採取に(おもむ)くのだ──現地まで。 今、私達のチームが再生に取り組んでいるのは、エゾオオカミ。 エゾオオカミは剥製や標本として残っている物は稀で、毛皮ですら現存している物は数枚しかない。 まさにサンプルが足りていないケースだった。 今回も、私達は多少の危険はあるが、現地までサンプルを採取しに行く。 今回の目的地は、十九世紀後半──まだ蝦夷地(えぞち)と呼ばれていた時代の北海道である。
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