第三章 秋

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3 今世紀の中頃に、それは起きた。 今では≪世界革命≫と呼ばれている一連の通過儀礼。 そこには特定のリーダーは見当たらず、それどころか組織化された実体すらなかった。 それでも、≪世界革命≫は世界各地で同時多発的に勃発し、穏やかに且つ迅速に隅々まで蔓延(まんえん)していった。 いや、実体がなかったからこそ、この≪世界革命≫は成し遂げられたのだろう。 ≪世界革命≫が起きた時、多くの人間はその意味を正確には理解していなかったし、完全に理解している者は、現在でもまだそう多くはないだろう。 外側から見たならば、≪世界革命≫は、人工知能による人類征服だった。 それも人類からの申し出による征服。 人類は自ら被征服民となることを望んだ。 しかし、内側から見ると景色は異なる。 かつて産業革命において機械を肉体の延長線上に置いたように、≪世界革命≫では人工知能が人類の頭脳の延長線上に位置付けられた。 産業革命後の社会で機械と張り合うことを(あきら)めたように、≪世界革命≫では人工知能と折り合いをつけた格好だ。 そもそも従来の民主主義は、意思決定システムとしては脆弱で、無駄が多すぎた。 新たに立ち上げられたシステムでは、人類によって提示された問題に人工知能が合理的な解答を導き出す。 自らの限界を悟った人類は、人工知能に意思決定を委ねることとし、永らく続いた民主主義社会の終焉(しゅうえん)が宣言された。 ここに新民主主義(ネオ・デモクラシー)が誕生した。
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