第三章 秋

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≪世界革命≫の契機は、いわゆるエネルギー問題の解決だった。 ≪世界革命≫から(さかのぼ)ること数年──ゼーベック効果を利用した熱電発電システムの確立により、従来の化石燃料への依存が完全に終わった。 太陽からの放熱は勿論、エアコンの排熱から人間の体温に至るまで、全ての熱源はエネルギーへと変換された。 安価な、そして大量のエネルギーの供給は経済の仕組みをも変えた。 従来からの人工知能による省力化と、安価なエネルギーにより人類の存続にかかるコストは限りなくゼロへと近付いた。 人々の生活には貨幣が不要となり、労働から解放された。 生活に必要なことは殆どが人工知能と機械がやってくれる。 資本主義も社会主義も、既存の経済体系は瓦解した。 人々の生活面での意思決定は、徐々に人工知能に委ねられるようになり、やがてそれは企業や自治体といった集団の意思決定にまで及んでいった。 トップ会談が人工知能同士となった瞬間──従来なら競い合っていた場面で、人工知能が導き出した戦略は、調和だった。 研究データは全て開示され、手の内は(さら)され、企業間の競争は消失した。 そして、一斉に行われた武装解除──内側からの戦力放棄──国家間の紛争は霧散した。 進歩の手段は競争から調和へとシフトし、そして≪世界革命≫は成し遂げられた。 それ以来、競争も戦争も無くなった。 人類はその歴史上初めて世界的な平和を手に入れた。
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