第三章 秋

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4 予定時間ちょうどに友人が現れた。 早くも遅くもないのが彼らしい。 時代考証を済ませた結果なのであろうが、古めかしい衣装に身を包んでいる。 見た目は当時のスタイルが再現されているが、素材は現代の物を使っているので、頑丈で汚れにも強いはずだ。 二言三言挨拶の言葉を交わし、彼は手近な椅子に腰掛けた。 それを確認しながら、私は卓上のタッチパネルを操作し作業を続ける。 作業といっても、ほとんどはモニターに現れる文書に目を通し、イエスを選択するという単純なものだ。 余程のことがない限りノーを選ぶことはない。 私は機械的に作業を続けながら、友人の様子を伺った。 旅行への緊張からか顔色が悪いようにも見える。 赤外線でモニターすると体温が普段より0.5度ほど低かった。 寝不足なのだろうか? 私の視線に気付いて友人は微笑んだ。 「ヒサギ」 友人が私の名を呼んだ。 名前を呼ばれるのは15日と17時間振りだ。 「ネコは元気?」 「うん、問題無い」 「何歳だっけ?」 「それは、ネコのこと?」 「ああ」 「分からない、一緒に生活するようになってからは5年になる」 彼らは、ある日突然私の前に現れた。 5年と23日前のことだ。
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